日本サッカーが成長するためのキーワード【まとめ】
「欧州にあって日本にないものは何か」
岡崎慎司のコンテンツ「dialoguew/〜世界への挑戦状」では、昨年4月に立ち上げて以降、現場の指導者や各業界のスペシャリストとの対談を行なってきた。そして、日本サッカーが成長するためのさまざまなキーワードが見えてきた。
話を聞いた人数は14、対談数は16回にのぼる。 2023年9月以降、その見えてきたものを具体化していくために「対談」に加え「議論」をスタートさせる第2シーズンをスタートさせる。
前編では、山下喬さん((FCバサラ・マインツ監督/ドイツ)、尾崎剛士さん(レバンテUD国際部/スペイン)、宮沢悠生さん(FCリーフェリングコーチ/オーストリア)、中野吉之伴さん(フライブルガーFCU12監督兼SVホッホドルフU19監督/ドイツ)などの「見解」をお伝えした。
後編となる今回は、 GK大国ドイツで指導経験を持つ松岡裕三郎さん(京都サンガアカデミー統括GKコーチ)、ドイツ・日本・オーストリアの3カ国で、監督・コーチ・ディレクターとして幅広く活躍しているモラス雅輝さん(SKNザンクト・ペルテン/テクニカルディレクター)のそれぞれの「見解」を紹介する(全2回の2回目)。
文:シンクロナス編集部
・山下喬さん((FCバサラ・マインツ監督/ドイツ)
・尾崎剛士さん(レバンテUD国際部/スペイン)
・宮沢悠生さん(FCリーフェリングコーチ/オーストリア)
・中野吉之伴さん(フライブルガーFCU12監督兼SVホッホドルフU19監督/ドイツ)
・モラス雅輝さん(SKNザンクト・ペルテンTD/オーストリア)
・松岡裕三郎(京都サンガF.C. アカデミー統括GKコーチ兼U-18GKコーチ)
日本と欧州の違いは「日本人指導者のレベル」
欧州4大リーグで監督をしている日本人指導者は「0人」
日本人選手の欧州移籍が加速している。
8月8日付けの韓国『中央日報』の記事によれば、2023-24シーズン開幕を控え、欧州リーグ全体において、韓国と日本の欧州組の数は「28人対136人」と伝えている。
欧州4大リーグ(イングランド・スペイン・ドイツ・イタリア)の1部と2部クラブにトップチーム契約している選手を至っては「韓国9人、日本人27人」。トリプルスコアの差がついている。
かつて韓国がアジアの永遠ライバルと言われていたのが嘘のような数字だ。
日本人選手の欧州移籍が加速する一方で、日本人指導者に目を向ければ、欧州4大リーグのクラブで監督をしている人数は「ゼロ」である。
JリーグのS級ライセンスを持っていても欧州で認められないのが一つの要因でもあるが、日本人選手が欧州レベルに達していてもそれを率いるリーダーが欧州レベルに至っていないのは見逃せない事実だ。
指導者の違いを考えたとき、今から20年前、日本代表の川口能活(現ジュビロ磐田GKコーチ)から聞いた話を思い出す。
当時、川口は日本人GKとして初めてヨーロッパへ移籍した。移籍先はイングランドのポーツマス。イングランド2部リーグだったがレギュラーを獲得できず、2年後にはデンマーク1部リーグのノアシェラン(デンマーク)に移籍したが、そこでも定位置確保には至らなかった。
当時の川口に電話取材した際、次のような質問をした。
「欧州に移籍して、どんなところに日本サッカーとの違いを感じたか?」
そこで川口が発した言葉は「名刺」だった。
「元代表GKから名刺をもらったとき、GK専門コーチと書かれていた。元代表GKがいろんなクラブを掛け持ちして直接教えている。ああ、欧州と日本ではこんなにもサッカー文化が違うのかと…。そこに驚きを隠せませんでした」
GKを育成するための人材や指導システムのあり方を見ても、欧州がサッカー先進国だと言われることがわかるエピソードである。
「メソッドを持ちながら、グラウンドではさらに強度を求めるのが重要。その点で日本は遅れていると正直感じる」(松岡裕三郎さん)
川口能活の挑戦から20年あまりを過ぎたが、GKのポジションでも日本人指導者が欧州へと渡って最先端の指導を学んでいる。
その一人が、今年5月に欧州指導者組でご出演いただいた松岡裕三郎さんだ。
松岡さんは、2009年ドイツに渡り、アマチュアチームでプレー。その後、2018年に育成に定評のあるシュツットガルトのアカデミーGKコーチに就任した。2022年からは日本に帰国し、京都サンガのアカデミー統括GKコーチ兼U-18 GKコーチとして、日本人GK育成に尽力している。
GK大国・ドイツの指導現場ではどのような違いや課題があるのか。松岡さんは現場レベルで体感してきた「日本との決定的な違い」について、次のように語っている。
「ドイツではメソッドをしっかり選手に伝える、表現する、理解させる。それが徹底している。メソッドを持ちながら、グラウンドではさらに強度を求めるのが重要。その点で日本はちょっと遅れているなと正直感じている」
また、ドイツでは、育成段階でどんなGKが伸びるのだろうか。その育てる視点について、松岡さんは「ドイツではポジショニングなどにフォーカスしていない」という。次の1点にフォーカスして指導することが大切だと強調する。
「ジュニアの段階で選手を見るときは、1対1のシーンでは怖がらないこと、怖がらずにボールを思い切り突っ込める。ポジションはどうでもいい。ボールにフォーカスする。ボールにフォーカスしてボールに行ける。形は変だとしてもボールを止められる、最後までボールを見れるのは大きなポイント」(松岡さん)
「スペインサッカーが、本当に日本人のストロングポイントなのか?もうちょっとみんなで考えたほうがいい」(モラス雅輝さん)
指導者レベルの違いについて、日本は明らかに遅れていると主張するのは、SKNザンクト・ペルテン(オーストリア」)のテクニカルディレクターとして活動しているモラス雅輝さんだ。
モラスさんは16歳でドイツへ留学し、オーストリアサッカー協会で指導者ライセンスを取得。オーストリアのレッドブル・ザルツブルクのスタッフ、浦和レッズのコーチ、ヴィッセル神戸のコーチ、昨シーズンはヴァッカー・インスブルックのセカンドチームの監督としてチームを指揮した。
欧州と日本サッカー界においてさまざまなポジションを務めた豊富な経験から、現在の欧州サッカーを取り巻く環境の違いを最も知る日本人をいっても過言ではない。
今オフ、サウジアラビアのクラブが一斉にビッグネーム獲得の乗り出して話題を攫っているが、今年4月の時点で、モラスさんは「サウジアラビアが欧州クラブ路線に乗り出し、育成のノウハウを取り入れる動きもある」という情報をキャッチしている。
監督目線とTD目線を併せ持つモラスさんから見て、日本が欧州に学ぶべきものは多いと感じている。「日本は、このままでは世界に勝てない?」という質問について、逆にモラスさんは次にようなテーマを投げかける。
「一つ言えるのは、僕自身が欧州で仕事をしたり、そのあと浦和レッズに行ったりして、やっぱり同じようなことを感じる。日本らしいサッカーとは高い技術力を発揮してボール扱いがうまくてパスをつないでコンビネーションで相手を崩していく。スペインサッカーみたいな話がよくあると思う。でも、本当にそれが日本人のストロングポイントなのか?もうちょっとみんなで考えたほうがいい」
また、日本サッカーが成長するためのキーワードとして、「レッドブル・ザルツブルクのエッセンス」を取り入れるべきだと主張する。
「日本人に合ったサッカーはなにか?」を議論するたび、モラスさんは「W杯で勝てるかってなったとき、高いインテンシティは必要不可欠」「世界に勝つために合った日本人サッカーを突き詰めていくとちょっと違うのかな」と首を傾げる。
日本人の特長である「勤勉性」や「組織力」を考えたとき、モラスさんは「それってプレスをかけるときに一番効果を発揮するんじゃないの?」と考えている。
「欧州にあって日本にないものは何か」。
このテーマを軸に、岡崎慎司の「dialogue w/欧州指導者組」ではさまざまな日本人指導者と一緒に対談を重ねてきた。
今回紹介しただけでも、松岡さんとモラスさんとも日本サッカーに求めるキーワードとして「インテンシティ」を挙げている。
ここでは紹介しきれないほどの日本サッカーが成長するための「ヒント」が、欧州日本人指導者たちに隠されている。
「Dialogue w/ 欧州指導者組」の2年目は、欧州と日本とのギャップや課題について、岡崎選手がこれまでご登場いただいた海外指導者組(山下喬さん、尾崎剛士さん、宮沢悠生さん、中野吉之伴さん、モラス雅輝さん)などとさまざまなテーマを議論します。
第1回は「欧州と日本の指導アプローチ」について。厳しい練習とはなにか?日本の指導者は選手をコントロールしすぎなのか?現場目線で指導の違いについて深掘りしていきます。ゲスト:モラス雅輝さんほか(予定)
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日本サッカー、スポーツには世界に誇るべきポテンシャルがある。けれどそれはまだまだ世界に認められていない――岡崎慎司は欧州で13年目のプレーを迎え、その思いを強く持つ。胸を張って「日本サッカー」「日本のスポーツ」を誇るために必要なことは何か。岡崎は言う。
「新しいサッカーやスポーツの価値を探し、作っていくアクションが必要」。
「欧州にあって日本にないもの」「新しい価値を作るためのキーワード」をベースに、海外で活躍する日本人指導者や各界の第一人者たちと語り、学び、交流し、実行に移していく実験的場所!
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