中世ヨーロッパ風の剣と魔法のRPG世界を舞台に、魔王討伐の旅のあとを描いた人気漫画作品『葬送のフリーレン』(原作:山田鐘人、作画:アベツカサ)。その豊かな世界観を、西洋史を専門とする研究者が歴史の視点でひも解く!

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仲田 公輔
岡山大学 文学部/大学院社会文化科学学域 准教授。セント・アンドルーズ大学 歴史学部博士課程修了。PhD (History). 専門は、ビザンツ帝国史、とくにビザンツ帝国とコーカサスの関係史。1987年、静岡県川根町(現島田市)生まれ。
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酒飲みの僧侶ハイターは本当に「生臭」か?

 また、聖職者といえば清廉というイメージがあるかもしれないが、それは『フリーレン』の世界でも同様の価値観が見られる。代表的な僧侶、ハイターとザインはそれに反し、二人ともたびたび「生臭」と言われている。ハイターは酒好き、ザインはギャンブルである。

 中世キリスト教ではどうかというと、酒飲みは禁忌とされてはいない。そもそも、儀式でワインが必要である。作中では「僧侶」と「生臭」という言葉で多くの読者が想起するであろう「生臭坊主」という言葉のイメージを尊重しているのかもしれない。

僧侶は生涯独身? 西洋中世の複雑な事情

 僧侶は独身を貫く必要があるという設定もあるようだ(第24話)。これも現実の聖職者のイメージから来ているのであろうが、西洋中世はどうかというと、事情はやや複雑である。...