吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。

第2回は千葉県立幕張総合高等学校(千葉県)#2

寂しさと覚悟

「ねぇ、Aコン乗らない? 今年の自由曲、《スペ狂(スペイン狂詩曲の略)》だよ?」

 エントリーシートを出したものの、やはり不安だったミソノは仲良しの男子5人を誘ってみた。

「いやぁ、乗らないよ」

「全然勉強できてないから、親に怒られる」

「去年、全国で金賞とったし、やりたいことはやれたからなぁ」

 彼らの返事はいずれもつれなかった。

 高3になり、1年前とはそれぞれに見据えている「いま」と「これから先」が違ってきているのだ。
(みんなジュニアかぁ……。Aメンとジュニアは練習も別々だし、会える時間が減っちゃうな)

 ミソノはオーディションでAメンに選ばれた。部活が終わった後の帰り道、以前ならいつも一緒だった男子たちの姿はない。よく寄ったコンビニやゲームセンターの前を通ると、寂しさが首元を吹き抜けた。
(私は覚悟を決めたんだ。Aコンに乗るからには、絶対に全国大会に出たい。この寂しさを乗り越えられたら、きっと私は変われる)

 ミソノはタコのできた手をぎゅっと握りしめた。

「応援ホワボ」でトラウマ克服

 吹奏楽コンクールは毎年選定される4曲の課題曲の中から1曲と、各校が自由に選択する自由曲の合計2曲を12分以内に演奏する、という規定になっている。

 2024年は課題曲が酒井格作曲《メルヘン》、自由曲はモーリス・ラヴェル作曲《「スペイン狂詩曲」より Ⅰ.夜への前奏曲 Ⅳ.祭り》。《スペイン狂詩曲》を編曲したのは、作曲家としての顔も持つ伊藤先生だ。

 たった2曲に青春の思いをかけて、ミソノや幕総オケ部のAメンは毎日必死に楽譜と、先生と、仲間たちと……そして、自分自身と向き合った。

 

 そして、強烈な暑さの夏が到来した。

 幕総オケ部にとって最初のコンクールは8月2日の千葉県大会(予選)。昨年全国大会に出場している幕総オケ部はシード演奏となっており、自動的に県代表を選出する本選大会への出場が決まっていた。

 とはいえ、今年度最初のコンクールの舞台であり、今後への試金石ともなるため、Aメン55人には緊張感が漂っていた。

 中でも、本番前に硬くなっていたのはミソノだった。もともと緊張しやすいタイプだったが、理由はそれだけではなかった。

 幕総オケ部は3月下旬に2日間開催したスプリングコンサートでも《スペイン狂詩曲》を演奏していたが、そのとき、ミソノはコールアングレのソロでミスをしてしまっていたのだ。

 その日、もちろん緊張もしていたが、思うように楽器に息が入らず、酸欠状態になったかのように苦しくなった。
(目の前が暗くなってよく見えない……手が硬直して指がうまく動かない……)

 演奏しながら、ミソノは密かにパニック状態になった。

 しかも、2日間のコンサートで、2回とも同じ経験をした。それがトラウマになって残ってしまった。
(コンクールでも、またあんなふうになるんじゃないか……)

 県大会のステージを前にして、ミソノは足がすくんだ。

 そのとき、スマートフォンにメッセージが届いた。

「なんだろう?」...