吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。
第24回は東海大学菅生高等学校(東京都)#2
本連載をもとにしたオザワ部長の新刊『吹部ノート 12分間の青春』(発行:(株)日本ビジネスプレス 発売:ワニブックス)が好評発売中。
吹奏楽部員、吹奏楽部OB、部活で大会を目指している人、かつて部活に夢中になっていた人、いまなにかを頑張っている人に読んで欲しい。感涙必至です!
違和感を覚えたまま降りたステージ
都大会本選に向けての練習は順調だった。練習場にはいつも迫力ある菅生サウンドが響き渡っていた。ただ、忘れ物があったり、返事がばらばらだったり、疲れからか集中力を欠く場面があったり、ヒデノリにはちょっとずつ気になることがあった。

ひとつひとつは小さなほころびだ。だからこそ、ヒデノリは敢えて厳しく注意をしなかった。もともとの優しい性格が、大事な大会前でみんなの空気を壊すことを躊躇させたのかもしれない。
そして、9月22日、都大会本選当日がやってきた。すでにほかの支部では全国大会の代表校が決まっており、残るは東京都代表2校だけだった。
東海大菅生のメンバーは午前3時に起床して準備をし、会場の江戸川区総合文化センターに乗り込んだ。
このとき、55人のメンバーの気持ちはひとつになっていた。けれど、小さなほころびが積もり積もって、どこかで歯車が狂わせたのかもしれない。
出場順1番の東海大菅生のメンバーは、静まりかえった薄暗いステージに出ていき、セッティングをした。
(怖いな。いつものコンクールじゃない感じがする……)
指揮台の横に立つ加島先生は笑顔だった。声を出さずに口だけを動かして、部員たちに「リラックス、リラックス」「肩の力を抜きなさい」と伝えていた。
セッティングは終わったが、予定の演奏開始時間まで数分あった。客席はすでに静まっており、東海大菅生は重苦しい空気と緊張感の中に放置された。その間にも、歯車のズレは大きくなってしまったのかもしれない。
ようやく時間が来てアナウンスが流れ、加島先生が指揮台に上がった。
まずは、課題曲《メルヘン》。大会の幕開けを告げる華々しい音で演奏が始まった。だが、ヒデノリは背筋に冷たいものを感じていた。
(昨日の練習は完璧だったのに、なんか違う……。みんなの集中力が足りてない)
力を出し切れないまま課題曲は終わってしまった。
続いて、自由曲《巨人の肩にのって》が始まった。
この曲は全3楽章からなる。ブルックナーの《交響曲第8番 第4楽章》の主題から力強く幕を開ける第1楽章「ファンファーレ」、トランペットとトロンボーンのソロを中心にジャズテイストで展開する第2楽章「エレジー」、そして、超絶技巧に彩られながら壮大なエンディングへと至る第3楽章「ファンタスティック・ブリランテ」。
ヒデノリが気にしていたのは第3楽章の入り方だ。速いテンポと複雑なリズムで始まるが、いつもその入り方で調子や出来の良し悪しがわかる。ヒデノリは自らもフルートを吹きながら、その入り方に注意して耳を傾けた。そして、心の中で首をかしげた。
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