吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。

第27回は東海大学菅生高等学校(東京都)#5

本連載をもとにしたオザワ部長の新刊『吹部ノート 12分間の青春』が大反響!

吹奏楽部員、吹奏楽部OB、部活で大会を目指している人、かつて部活に夢中になっていた人、いまなにかを頑張っている人に読んで欲しい。感涙必至です!

先生に贈る「あ・り・が・と・う!」の演奏

 3年でアルトサックスを担当する「ミク」こと野中美空は、小柄な体とメガネがトレードマークで、サキとは小学校のころからずっと一緒だった。

 今年は予定を立てたり、部員の行動面をチェックしたりする庶務長という役職についた。庶務長は部長・副部長・学生指揮者とともに吹部をまとめる幹部だ。

 ミクは今年初めて念願のA組メンバーになった。全国大会出場は夢だった。

野中美空さん(3年生・アルトサックス)*写真前列右から2番目

 だが、都大会本選の演奏中に、「朝イチだからか、気持ちがもうひとつ入ってないな」と感じる場面があった。全員がギアをトップに入れて演奏できていなかった。ミク自身もそうだった。演奏が終わった後、ミクは幹部として責任を感じた。

 表彰式のときも、都大会本選が初めてで、全国大会に出たことがないミクには、自分たちの演奏がどうだったのか判断できなかった。

 代表校発表で名前が飛ばされたときは「何かの間違いじゃない?」と思った。 でも、それは間違いではなかった。帰りのバスの中で涙が止まらなかった。

 それから2カ月、ついに吹奏楽部員として最後の日、定期演奏会当日を迎えた。

 結局、ミクは一度も全国大会を経験できずに高校生活を終えることになった。それでも、東海大菅生に入ったことを後悔していない。むしろ、入ってよかったと思っていた。

 中学までのミクはみんなの前に立って発言したり、自分の思ったことを行動に移したりすることができない消極的なタイプだった。けれど、東海大学菅生に入ってから性格も行動もすべてが変わった。特に、庶務長に選ばれ、100人を超える大所帯の前で話したり、指示を出したりした経験はミクを強くたくましく成長させてくれた。

 定期演奏会の前に先生がくれた青い手紙を読んだとき、ミクは泣いてしまった。

 さあ! 第40回記念定期演奏会は君たちの集大成の演奏会です。
 もう恐れるものは何もありません。一緒に歩んできた仲間を信じ、ミスを恐れず、1曲1曲に心を込めて、これまでの音楽人生のすべてをかけて最高の菅生サウンドを奏でましょう。

 手紙に込められた先生の思いが胸にしみた。いったい自分たち40期生はこの1年でどれほど多くの涙を流したことだろう。

 1年生で入部したばかりのころは先生のことが少し怖かった。上手な先輩たちや同期に比べて、1年生のときも、2年生のときも自分が足を引っ張っているような気がしていた。

「私、ここにいていいのかな。居場所がないな……」

 後ろ向きな考えにとらわれていたとき、廊下ですれ違った加島先生が「どう、元気?」と声をかけてくれた。先生はちゃんと自分のことを知ってくれているんだ、と思った。もしかしたら、自分のネガティブな気持ちにも勘づいているのかもしれない。なんだか救われた気がして——気づけば最後まで部活を続けることができた。

 今日の定期演奏会、自分たちからも先生に「あ・り・が・と・う!」を贈る演奏をしよう——ミクはそう心に決めた。

 

数え切れないほどの「ありがとう」と「さようなら」

 東海大学菅生高校吹奏楽部の第40回定期演奏会が始まった。

 クラシックステージである第1部では、A組の55人が思い入れの深い《メルヘン》と《巨人の肩にのって》を演奏した。

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