第72回全日本吹奏楽コンクール(通称・吹奏楽の甲子園)で創部初となる2年連続の金賞を受賞した千葉県立幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部。

 オザワ部長の最新刊『吹部ノート 12分間の青春』では、悩み、葛藤しながらも目標に向う高校生の言葉に綴られた想いを紹介している。

 その指導にあたる顧問からは、どのように見えたのだろうか。

 部員たちの「言葉=吹部ノート」からは窺い知れない、顧問にとっての「言葉=吹部ノート」を、指揮・指導にあたった伊藤巧真先生に聞いた。

豊かな「言葉」が豊かな音楽を生む

「2023年度は名古屋(会場の名古屋国際会議場センチュリーホール)で10年ぶりの全国大会出場。私にとっては初めての全国でしたし、部員たちももちろん幕総では初めて(中学時代に経験している部員はいた)。非常に特別な感情になったことをよく覚えています。なので、2024年度の全国大会前には部員たちに『ここからの1週間は特別な感情になるよ』という話をしたのですが……実は、まったくそうならなかったんです」

 全国大会ならではの独特の緊張感や高揚感がなかったのは、前年出場から来る慣れだったのか、それとも金賞を受賞した自信が(無意識にしろ)あったのか、伊藤先生には正確にはわからなかったという。

「2024年度の全国大会は宇都宮市文化会館でした。実はこのホールは東関東大会でもよく使われており、私にとっては何度も苦汁をなめてきた場所です。一方で、よく知っているホールでもありますし、友情関係にある栃木の作新学院高校吹奏楽部とジョイントコンサートをした場所、私がいま住んでいる千葉県と故郷の福島県の間にある場所でもあります。いろいろな要素があったと思いますが、結果として私も部員たちも、全国大会ならではの『特別な感情』を持つことなくステージに立ち、演奏し、そのまま演奏を終えてしまった、という感じでした」

 書籍の中でも書かれているが、幕総オケ部は「コンサートのような雰囲気」で演奏をし、その結果は2年連続の金賞という形に結実した。

 先生や部員たちの実感はともかく、卓越した音楽によって聴衆を魅了し、最高の評価を得たわけだが、部員たちはその過程で寄せ書きや手紙などに心に刺さる「言葉」を綴り、また、自分たちの思いを豊かな「言葉」で語っている。

 実は、音楽においては「言葉」というものが重要な意味を持っているのではないか。豊かな「言葉」が豊かな音楽を生むキーとなり、また、優れた音楽性を養う中で「言葉」が磨かれるのではないか。

先生にとっての「吹部ノート」

 伊藤先生は言う。

「まさしくそのとおりだと思います。音楽は音で表すものですが、練習の過程では感じた印象を言葉で伝え合わなければなりません。私自身、部員たちの様子を見ていて『日ごろから音楽に対してどんな言葉を選んでいるかが演奏のクオリティに直結している』と感じていました。音楽そのものを言葉で説明することはできませんが、言葉で語り合った先にこそ、言葉では語り尽くせない感動が生まれるのではないかと思っています」

 実際、入部当初の部員は音楽について質問したり感想を求めたりしても、なかなかうまく言葉にできないが、対話をしながら月日を重ねていくうちに音楽が磨かれ、「言葉」が豊かになっていくのだという。

 そんな伊藤先生だが、自身では毎年のように心の中で「ノート」ならぬ「シナリオ」を書いているそうだ。

「すべての代(学年)が入部した瞬間から、一人ひとりの部員たちを見て、『この代はこの先、こんなふうに変化していき、最後はこうなる』という未来予想図のようなシナリオを書くんです。ある意味、それが私にとっての『吹部ノート』かもしれません。その点で言えば、2024年度の全国大会は、前年度と同じシナリオを書いてしまったけれど、結果としてはいい意味でそうならなかった、ということだったのだと思います」

 では、先生にとって自身たちの活動が『吹部ノート 12分間の青春』という書籍になることについてはどう感じているのだろうか?

「私が描いたシナリオと部員たちが実際に生きた1年間をオザワ部長にノベライズしてもらった、映画化してもらった、というような感じですね。また、自分たちの活動が、オザワ部長の文章によって記念碑になるような気がします。言葉というのは、読む人それぞれがその時点の想像力を使って理解していくので、実は何年経っても古びた感じがしないんです。そういったものに自分たちの活動がなったというのは嬉しいですし、今後入部してくる生徒たちや幕総以外の学校の生徒さんたちにも幕総オケ部の活動をぜひ感じてもらいたいです」

 苦悩や悔しさ、葛藤がありながらも、最高のフィナーレを迎えた幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部の1年間。そのいきいきした青春は、ページの中で息づいている。

顧問・伊藤巧真先生
音楽科教諭。1987年生まれ。福島県出身。中学時代は野球部で、福島県立白河高校吹奏楽部では打楽器を担当。福島大学大学院人間発達文化研究科で作曲を専攻。2015年より現職

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全国の中学高校の吹奏楽部員、OBを中心に“泣ける"と圧倒的な支持を集めた『吹部ノート』。目指すは「吹奏楽の甲子園」。ノートに綴られた感動のドラマだけでなく、日頃の練習風景や、強豪校の指導方法、演奏技術向上つながるノウハウ、質問応答のコーナーまで。記事だけではなく、動画で、音声で、お届けします!

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