吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。

第23回は東海大学菅生高等学校(東京都)#1

本連載をもとにしたオザワ部長の新刊『吹部ノート 12分間の青春』(発行:(株)日本ビジネスプレス 発売:ワニブックス)が好評発売中。

吹奏楽部員、吹奏楽部OB、部活で大会を目指している人、かつて部活に夢中になっていた人、いまなにかを頑張っている人に読んで欲しい。感涙必至です!

東海大学菅生高等学校吹奏楽部(東京都)
東京都八王子市に位置する私立高校。1928年創立。略称は「八学(はちがく)」。吹奏楽部はこれまで日本テレビ「1億人の大質問!?笑ってコラえて!」など多数のメディアに取り上げられ、今年度は乃木坂46メンバーとも共演を果たした。全日本吹奏楽コンクールに通算7回出場。ミツバチの「はちおうじ君」という部の公式キャラクターがいる。モットーは「歌って、踊れて、演奏できる」バンド。
 

先生の青い手紙、さよならのステージ

 2024年11月24日。東海大学菅生(すがお)高校吹奏楽部は3年生の卒部コンサートでもある定期演奏会を東京都八王子市のホールで開催した。

 第40回という記念の演奏会だったが、会場内には昨年までとは違う空気が流れていた。

 東海大菅生は東京を代表する吹奏楽の強豪のひとつ。全日本吹奏楽コンクールの通算出場回数は10回で、2018年からは5大会連続(コロナ禍でコンクールが中止となった2020年を挟む)で金賞を受賞していた。

 

 だが、2024年、都大会本選で東京都代表に選ばれたのは東海大学付属高輪台高校と八王子学園八王子高校。東海大菅生は自由曲《巨人の肩にのって》(ピーター・グレイアム)を持ち前のダイナミックさや歌心で見事に奏でた。それだけに、前年の全国大会金賞校の「敗退」という悲劇には、全国の吹奏楽関係者やファンが驚いた。

 定期演奏会の朝、顧問の加島(かじま)貞夫先生はリハーサルの準備をしている3年生を集めた。

顧問・加島貞夫先生

「これは先生からのメッセージだよ」
 先生は青い紙にプリントされた手紙を43人の3年生に一人ひとり手渡していった。すると、すぐに3年生の間にすすり泣きが広がった。
 その手紙はこんな書き出しから始まっていた。

 吹奏楽部40期生の皆さんへ
 9月21日の都大会から2カ月余り……2024年11月24日……いよいよ君たち40期生の現役生活にピリオド(終止符)を打つ日が来てしまいました。
 2024年10月20日の第72回全日本吹奏楽コンクール、複雑な気持ちで一人……私は宇都宮市文化会館の2階席からステージを見つめていました。目をつぶると指揮台にいる私をしっかり見ている55人の姿が浮かびました。

 全国大会当日、加島先生は全日本吹奏楽連盟の理事として会場にいた。そして、ステージ上で指揮をする自分と、演奏する部員たちの幻影を見た。

 ラストは全員TUTTI(トゥッティ)による圧倒的な美しい音圧で音楽を締めくくる!!!「ブラボー!」の声援に割れんばかりの拍手……!「賞なんてどうでもよい! これが菅生の音楽だ!!!」 みんなの頬にはやりきった感動の涙が……!!!
 静・か・な……とても静かなま・ぼ・ろ・し……。気がつくと……そばには君たちがいないことの現実が悲しくて、涙が止まらなかった……。
 

全国大会5大会連続金賞のプレッシャー

 その青い手紙を手を震わせながら読み、大きな瞳を潤ませている丸刈りの少年がいた。

 菊澤秀徳(ヒデノリ)。今年度の部長で、フルートのトップ奏者だ。

 丸刈りにしたのは高1の秋だった。東海大菅生では大人数の部員はA組からD組までに分かれて活動する。全国大会を目指す55人はA組だ。ヒデノリは1年生のときはD組だった。全国大会に出場するA組の打楽器運搬を手伝うため、名古屋に同行していた。ところが、大事な当日の朝に寝坊してしまい、朝食に間に合わなかった。

 A組は見事金賞に輝いたが、ヒデノリは自分の失敗を大いに反省し、東京に戻ってから自ら丸刈りにした。最初はそのヘアスタイルに抵抗があったが、学校にいるときも、ステージに出たときも、みんなが自分に注目していることがわかり、「これが僕のトレードマークだ」とずっと丸刈りを続けてきた。

菊澤秀徳さん(3年生・フルート)*写真中央

 ヒデノリは高2ではB組になり、高3で初めてA組になった。みんなをぐいぐい引っ張るタイプではなかったが、投票で部長にも選ばれた。

 ヒデノリにとって、全国大会での5大会連続金賞は大きなプレッシャーになった。

 ヒデノリにはコンクールとの因縁もあった。姉と兄がおり、いずれも東海大菅生の吹部の卒業生だ。姉が高3のときは全国大会出場が叶わず、兄が高3のときにはコロナ禍でコンクールが中止になった。しかも、今年の自由曲《巨人の肩にのって》は、兄がコンクールで演奏するはずだった曲でもあった。

 

 姉や兄のリベンジをするためにも自分が全国へ——。その思いを形にする第一歩として、東海大菅生は8月の都大会予選を突破。都大会本選への出場を決めた。

 だが、そこに落とし穴が待っていた。都大会の本選は、中の書類に出場順が記された封筒を代表者が選ぶくじ引き形式。東海大菅生で封筒を引いたのはヒデノリだった。出場順1番は不利だとされているため、加島先生には「1番だけは引くなよ」と言われていた。

「ほかの部員に任せる方法もある。でも、もし僕以外の部員が引いて1番だったら、その子がかわいそうだ。やっぱり部長の僕が責任を持とう」

 そう覚悟を決めてヒデノリが引いた封筒の中には「1番」の文字が記されていた。

「やってしまった……」

 ヒデノリの大きな目から、思わず涙があふれた。

 出場順が1番になったことを知った部員たちは「まぁ、しょうがないよ」「何番でも関係ないよね」と前向きにとらえてくれた。頼もしい仲間たちでよかったとヒデノリは思った。

<次回>【吹部ノート 第24回】東海大学菅生高等学校(東京)#2

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