ワールドカップ出場権を目指し、アジア最終予選を戦う日本代表。
選ばれしトップ選手たちが集うその集団を目指して、異国の地で戦う男たちは数多くいる。そんな中で徐々に増えつつあるのが「Jリーグを経由せず欧州に挑戦する」選手たちだ。
日本でその名が知られていなくとも、所属先で高い評価を受けている選手も多い。
現在、ドイツ3部のアルミニア・ビーレフェルトで活躍する水多海斗選手もそのひとり。ビーレフェルトは3シーズン前までブンデス1部にいたトップクラブでもある。果たして彼はどんなサッカー人生を生き、ここにたどり着いたのか。そこで感じたこと、目指す先、日本人の可能性とは――?
岡崎慎司とともに「欧州と日本サッカーの距離」を縮めるための課題、ヒントを探る動画コンテンツ『dialoguew/」で水多に直撃した。
(本稿は動画『【ビーレフェルト・水多海斗×岡崎慎司】「毎年数百人の日本人選手がドイツに来るけど、ステップアップしている選手は数名」』を編集した前編。)
欧州と日本ではスカウトの「目」が圧倒的に違う
――サッカー選手のキャリアとしていろんな選択肢がある中で、高校卒業後にドイツに渡ってよかったなと感じたところ、あるいは、もしそのまま日本でプレーしていたことを想定して考えられる(渡欧の)メリットをそれぞれ教えてください。
水多海斗 まず、実際にドイツに行って感じたのは、日本以上にサッカー選手としてステップアップしやすい環境だということです。
下部のリーグになればなるほど、現地に視察に来るスカウトは少なくはなるのですが、それでも圧倒的な得点数やアシスト数を残すことができれば、たとえば5部から3部リーグのチームに“飛び級”で昇格することだってあり得る。
それどころか日常的に(飛び級のようなことが)起きているので、チャンスを掴めば一気に上のレベルでプレーできるのが、ドイツ含め欧州リーグの魅力だなと感じます。
ただ、いきなり海外に行くとなると、言語や食事がまったく違うのでかなり苦しみます。実際にホームシックに悩まされる日本人選手をたくさん見てきました。
環境や文化の違いに左右されることなく、サッカーに専念できるという意味では、選手によっては日本でプレーする方がメリットはあるかもしれません。
――水多選手と同じように、Jリーグを経由せずに海外へ挑戦している日本人選手はほかにもいると思うんですけど、実際のところ何人ぐらいいるのですか?
水多海斗 ドイツに限っては、毎年100〜200人ほど来ています。ただその中で、上に登っていくのは一握り。
5部から4部に上がった選手をあまり見たことがないので、ステップアップしている選手はほぼいないのが現状です。1年間で半分ぐらいの選手が日本に帰ってしまっていますね。
岡崎慎司 一気に昇格できるチャンスを掴もうとみんな海外に挑戦するけど、上にあがっている例が少ないというのは、やっぱり選手として何かが違ったり、足りない部分があったんだと思うけど……。
実際に同じような境遇の選手たちを見てきた水多くんからすると、ステップアップ出来た自分との違いはなんなのか、客観的に分析できていたりする?
水多海斗 はい。自分がステップアップできたのは、目に見える数字を残せたことが1つの要因です。
加えて、プレー以外の面でいろいろ試行錯誤をしました。
というのも、海外のリーグに日本人が突然ポンっと現れて、すぐに『どうぞ』とパスしてくれることなんて当然ありません。
自分がボールを蹴るためには、チームメイトとコミュニケーションを取らなければいけませんでした。とくに日本人は大人しいイメージがあるので、積極的に話しかけに行く必要があります。
なので僕は、言葉が通じなければジェスチャーで気持ちを伝えたり、必要な時にはプレー中に『いま何でパス出さなかったの?』と選手に言い寄ったこともありました。
監督やコーチにも『俺はもっとこうしたいんだけど、どう思う?』と自分をよくするために、常に話すことを心がけました。
本当に点を取るためなら何でもしましたね。その意識の違いが、ほかの日本人選手との大きな違いだったように思います。
ドイツの環境に適応できなかった選手との差はどこに?
岡崎慎司 高校卒業後に、当時5部のSVシュトラーレンに加入した時は、きっとほかの日本人選手と同じように留学生としてドイツに渡ったと思うんだけど、やっぱり練習以外の時間は働いたりしていた?
水多海斗 アルバイトはしていなかったです。当時SVシュトラーレンを運営していたのが建設会社というのもあり、部屋を提供してもらえていたので、ギリギリ生活できていました。
そういう環境で過ごすなか、1年で5部リーグ優勝。チームは4部へ昇格することができました。
岡崎慎司 そのまま2年間プレーした後に、同じ4部リーグのマインツIIが獲得してくれたのか。
でもやっぱり、渡欧1年目で活躍した上でチームの4部昇格へ貢献できたことが、水多くんにとっての大きな分岐点だったように思う。
日本から来たばかりだと、ドイツの環境に戸惑って思うようにプレーできないことが多いから、どうしても言い訳が先行し、新たな挑戦を避けてしまう傾向にある。
水多くんも少なからず異文化の壁は感じていたと思うんだけど、そういう苦難に直面した時にどういう気持ちでその壁を乗り越えたのか。
そこは同じように海外留学をする日本人選手たちにとっても重要な部分だと思うから、是非聞かせてほしい。
水多海斗 ありがとうございます。僕の場合、本当にプロになりたい気持ちが周りの人と比べて何倍も強いんです。それが自分の核になっています。
あとはこれまで、学生時代に同期だった選手たちが、高校卒業後にプロになっていく姿を見てきたから、『あいつらには絶対に負けられないな』という思いもあります。
岡崎慎司 じゃあ、現地で一緒に過ごした選手だったり、周りから受ける刺激や影響が関わっていたりとか、そういうわけではないんだね。
身近にはSNSとかゲームとか、いろんな誘惑があるから『お前、もっと遊んでもいいんじゃないか?』みたいな悪魔のささやきに負けそうになって心がブレることもなかった?
水多海斗 そうですね。高校卒業後も海外挑戦以外考えられなかったですし、プロになるという目標に縛られながら生きてきたので。
岡崎慎司 それはサッカー留学する他の選手とは気持ちが違うように思う。
実際に海外挑戦した留学生の話を聞くと、自分のことに集中できなかった選手が大半。水多くんはドイツに行った時から、すでに一歩先を見据えていたんだね。(文/佐藤主祥 後編に続く)
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日本サッカー、スポーツには世界に誇るべきポテンシャルがある。けれどそれはまだまだ世界に認められていない――岡崎慎司は欧州で13年目のプレーを迎え、その思いを強く持つ。胸を張って「日本サッカー」「日本のスポーツ」を誇るために必要なことは何か。岡崎は言う。
「新しいサッカーやスポーツの価値を探し、作っていくアクションが必要」。
「欧州にあって日本にないもの」「新しい価値を作るためのキーワード」をベースに、海外で活躍する日本人指導者や各界の第一人者たちと語り、学び、交流し、実行に移していく実験的場所!
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