
中世ペルシア風の異世界を舞台に、王太子アルスラーンと仲間たちの活躍と成長を描いたファンタジー小説『アルスラーン戦記』(著:田中芳樹)。その壮大な世界観を、西洋史を専門とする研究者が読み解く!(第6回/全7回)
仲田公輔
岡山大学 文学部/大学院社会文化科学学域 准教授。セント・アンドルーズ大学 歴史学部博士課程修了。PhD (History). 専門は、ビザンツ帝国史、とくにビザンツ帝国とコーカサスの関係史。1987年、静岡県川根町(現島田市)生まれ。
十字軍をモデルにしたパルス侵攻 『アルスラーン戦記』のイアルダボート教勢力によるパルスへの侵攻は、十字軍をモデルにしたものであるという。作中...続きを読む
中世ペルシア風の異世界を舞台に、王太子アルスラーンと仲間たちの活躍と成長を描いたファンタジー小説『アルスラーン戦記』(著:田中芳樹)。その壮...続きを読む
作中に見る第4回十字軍の要素
十字軍の中でも『アルスラーン戦記』との関係で特に注目に値するのが第4回十字軍である。
第4回十字軍といえば、1204年に本来の目的を外れてコンスタンティノープルという同じキリスト教徒の街を攻め落としたと言われている。『アルスラーン戦記』作中の、ルシタニアが同じイアルダボート教のマルヤムを占領しているという設定も、これを意識しているのかもしれない。
また、『アルスラーン戦記』に登場するルシタニア関係者の名前は、第4回十字軍に関わった人物に似たものが多い。
例えば有力な将軍としてモンフェラートとボードワンという人物が登場するが、モンフェラートについては、第4回十字軍の総司令官を努めたのが、イタリア貴族のモンフェラート(地名)侯ボニファッチョだった。また、十字軍がコンスタンティノープルを攻め落とした後、いわゆるラテン帝国の皇帝として即位したのが、フランドル伯ボードワンだった。
王子の亡命と逆襲
さらには第4回十字軍の経緯についても、『アルスラーン戦記』の筋書きと共通する要素がある。...