吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。
第5回は千葉県立幕張総合高等学校(千葉県)#5
最後のコンクールへ
8月2日、千葉県大会が始まった。最初はシード演奏とはいえ、マオは不安が大きかった。Aメンがまとまっているとは言えなかったし、演奏でも伊藤先生から指摘を受けることが多かったからだ。
「このままだと後悔することになるかもしれない」
合奏練習中、先生はたびたびそう口にした。それはつまり、今年は全国大会には行けないかもしれないということだ。
(去年の先輩たちに追いつけてないのはわかってる。でも、全国大会を諦めることなんてできない!)
それには、たとえシード演奏でも本気でぶつかっていくしかない。
本番前、気負っていたマオのスマホにメッセージが届いた。ジュニアや弦楽器のメンバーから「応援ホワボ」の画像が届いたのだ。
その中にはリコの書き込みもあった。
自分たちは29期の部員。いまだぶつかり合うことも多かったが、リコの「あいしてる」の言葉を目にして、マオの心は温かくなった。
(私も「あいしてる」!「あいしてる」みんなと10月の全国大会まで演奏を続けられるように頑張ろう!)
マオは顔に笑みを浮かべ、ステージへと出ていった。
8月2日のシード演奏を経て、幕総オケ部は8月11日の千葉県大会本選に出場。見事第1位で東関東大会出場を決めた。東関東大会で3枠の代表校に選ばれれば、2年連続全国大会出場が決まる。
東関東大会には千葉県のほか、神奈川県・栃木県・茨城県から24校が出場する。全国大会の常連校もいれば、かつて全国大会に出場経験のある学校、近年一気に実力を高めてきている学校などが集まる激戦区。その中で代表の座を射止めるのは至難の業だ。
東関東大会を目前に控えても、まだ幕総オケ部のAメンは演奏でも気持ちの面でもひとつにまとまりきることができていなかった。
マオは焦りを募らせていた。本番2日前、学校で本番を想定した練習をしたときも、伊藤先生に言われてしまった。
「みんなの演奏には心がない。55人で力を合わせて演奏すればいいのに、どうしてそれぞれがひとりでやろうとするんだ? どうして仲間を信じないんだ? 信じるのは怖いことじゃないよ」
みんなの気持ちが沈んでいた。いまから建て直せるのだろうか。もう間に合わないのではないか……。
マオも落ち込んでいたが、練習後にリコがやってきた。
「これ、どうしようもなくつらくなったときに読んでね」
リコはそう言って、マオや幹部一人ひとりに手紙をくれた。...