吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。
第22回は八王子学園八王子高等学校(東京都)#5
また本連載、オザワ部長の新刊『吹部ノート 12分間の青春』(発行:(株)日本ビジネスプレス 発売:ワニブックス)が2025年3月5日に発売されます。
吹奏楽部員、吹奏楽部OB、部活で大会を目指している人、かつて部活に夢中になっていた人、いまなにかを頑張っている人に読んで欲しい。感涙必至です!
ようやく訪れた「夏の終わり」
全国大会の表彰式には、またトビカワとタシロの男子コンビと髙梨先生が出た。トビカワは気持ちを落ち着かせるため、金のハチマキを右手に巻き付けていた。
結果はどうなるか、まったく予想がつかなかった。八学より前に出場した埼玉県立伊奈学園総合高校や千葉県立幕張総合高校、大阪桐蔭高校が次々と金賞を受賞していく。
(これだけ金賞が出ると、さすがに厳しいか……)
トビカワはハチマキをギュッと握りしめた。役員にうながされ、トビカワたちはひな壇からステージの前方に出ていった。表彰の場へ向かう3人の耳にアナウンスが聞こえた。
「13番、八王子学園八王子高等学校——ゴールド金賞!」
その瞬間、驚きのあまりトビカワたちは3人揃ってビクッと体を震わせた。
(これは夢なのか!? 夢じゃないよな!?)
トビカワは興奮でクラクラしながら表彰状を受け取った。すぐ横を見ると、大きなトロフィーを手にしたタシロがいた。気がつくと、都大会のときのようにタシロに抱きついていた。トビカワは心の底からタシロに感謝していた。この素晴らしい友がいなかったら、きっとこの結果はなかった。負け続けた自分たちが、ついに勝った。ありがとう!
客席ではアカリやイッちゃん、仲間たちが泣きながら喜んでいる。トビカワはその光景を、一生消えることのない心のメモリに焼きつけた。
吹奏楽コンクールで勝ちにこだわりすぎるのはよくないという意見もある。でも、自分たちは命がけで努力を続け、勝つことができた。もがき続け、なんでこんなに苦しんだり悩んだりしなきゃいけないのかと思ったこともある。だが、一人ひとりが壁を乗り越えて、結果を出すことができた。いや、もし結果が出なかったとしても、「勝ち」にこだわってきたからこそ、プロセスが充実したものになった。全国大会で金賞をとれなかったとしても、明らかに今年は全国大会金賞レベルの活動をしてきたと言える。
(僕たちの道は正しかったんだ——)
いまだからこそ、全国大会に出場したすべての学校の部員が、八学と同じように素晴らしいプロセスを経てここに集まっていることがトビカワにはわかった。そして、負けた学校の悔しさも改めて理解できた。
こうして、創部初の全日本吹奏楽コンクール金賞という最高の結果を残し、トビカワたちの挑戦は終わったのだった。

夢のような全国大会が終わり、約1カ月後。
とあるホールの客席にトビカワとアカリの姿があった。...