吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。
第21回は八王子学園八王子高等学校(東京都)#4
また本連載、オザワ部長の新刊『吹部ノート 12分間の青春』(発行:(株)日本ビジネスプレス 発売:ワニブックス)が2025年3月5日に発売されます。
吹奏楽部員、吹奏楽部OB、部活で大会を目指している人、かつて部活に夢中になっていた人、いまなにかを頑張っている人に読んで欲しい。感涙必至です!
全国大会に響いた「快進」の演奏
10月20日、全日本吹奏楽コンクール・高等学校の部の当日がやってきた。
八学は3日前から遠征に出てホール練習をおこなった。2日目には全国大会常連の精華女子高校との合同練習もあった。3日間でメンバーはさらに上達し、成長した。
当日のスケジュールはタシロが立て、みんなに配った。大会などの日に予定を作るのはタシロの役割だった。プリントには1日の行動が時間ごとに細かく記され、衣装や持ち物の注意などもあった。そして、最後にこう太字で書かれていた。

その言葉はメンバーの胸にしみた。
本番の会場に向かう前、最後の練習をしているとき、急に髙梨先生がこう言い出した。
「近くに川が流れてるから、ちょっとみんなで遊んでおいで」
メンバーは怪訝な表情になった。アカリも「いまは遊んでる場合じゃないのに……」と思った。だが、いざ外に出てみると、秋の朝の日差しや風が心地よく、閉じこもっていた気持ちが解放された。みんなは川べりでおしゃべりしたり、歌を歌ったりしている。
「私、無意識に硬くなってたのかも。川に来たおかげで素に戻れた気がする。もしかしたら、先生はみんながいつもどおりじゃないって気づいてたのかな……」

アカリは改めて髙梨先生への尊敬の念を深めた。
川遊びの後で練習場所に戻って課題曲と自由曲を合奏すると、さっきまでとは見違えるようにいきいきした音楽が生まれた。先生の作戦は成功だった。
八学はバスに乗り込み、宇都宮市民会館へ向かった。決戦の舞台が近づくと、やはり車内には緊張感が漂う。全国大会には前後半15校ずつ全30校が出場するが、その多くが常連校。6年ぶりに出場する八学にとって、全国の舞台は「アウェイ」だった。
八学のバスが駐車場に入っていくと、20人ほどの高校生が手を振っているのが見えた。楽器の運搬などを手伝ってくれる八学のサポートメンバー(サポメン)だった。サポメンはメンバーとは別に新幹線で宇都宮入りしていたのだ。...