吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。

第15回は岡山学芸館高等学校(岡山県)#2

北の国からやってきた少年

 107名を数える岡山学芸館高校吹奏楽部の部員の中には、その音楽に心をつかまれ、親元を離れて岡山にやってきた者たちも少なくない。

 その出身地は岩手、東京、富山、奈良、福岡……。

 中でも異色なのは3年生のトランペット奏者、瀧野勇武(イサム)。北海道東神楽町の出身だ。

 東神楽町は道北エリアに位置しており、のどかな田園地帯が広がる一方、冬は一面が雪景色となる。北海道らしい雄大な風景の中でイサムは生まれ育った。

 町で唯一の中学校、町立東神楽中学校の吹奏楽部でイサムはトランペットの腕を磨き、吹奏楽コンクールでは全国大会にあと一歩と迫る北海道大会金賞を受賞した。

 イサムは高校でも吹奏楽を続けるつもりだったが、そこで迷った。

(部活だけじゃなく、勉強も頑張りたいな……。自分に合った吹部はどこなんだろう?)

 そんなイサムに岡山学芸館を勧めてくれたのは、吹奏楽部の顧問の先生だった。思い切って岡山を訪れ、オープンスクールに参加してみたところ、岡山学芸館の上質な演奏に感動し、「高校は絶対ここにしよう!」と決意した。

 こうして2022年春、イサムは不安がる両親を説得して岡山学芸館に入ったのだった。

 北の国からやってきた中学卒業直後の少年は、岡山でひとり暮らしをしながら高校生活をスタートさせた。住まいは学校から徒歩圏内のマンション。北海道では見ることがなかったゴキブリにも遭遇した。

 当初は無口なキャラを装っていたが、先輩たちが優しく話しかけてくれて、すぐに打ち解けることができた。吹奏楽部の練習は楽しく、刺激に満ちていた。

 部活が終わって帰宅すると、自分以外誰もいない部屋はやはり寂しかった。だが、先輩たちが気を遣って電話をかけてきてくれたし、自炊や勉強などやることはたくさんあり、イサムはあっという間に岡山生活になじんでいった。

 

いい音楽を、純粋に

 イサムは高1で早くも55人のコンクールメンバー=百合に選ばれ、夢だった全日本吹奏楽コンクールに出場した。そのころは怖いもの知らずだったし、先輩たちが引っ張ってくれたので、純粋に演奏を楽しむことができた。金賞という結果もついてきた。

 イサムにとっては順風満帆な1年目だったが、2年目に壁にぶつかった。

 この年も百合のメンバーとして全日本吹奏楽コンクールの舞台に立ったイサムだったが、昨年より責任のある立場での演奏で、必要以上の緊張感に襲われた。結果的にはこの年も岡山学芸館は金賞を受賞したが、イサム自身は心から楽しむことができない演奏だったことに悔いが残った。

「緊張にどうやって打ち勝つかが課題だ。絶対克服しよう!」

 イサムは明確に目標を設定した。...