吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。

第19回は八王子学園八王子高等学校(東京都)#2

《モンタージュ》は運命の曲

 春になり、トビカワやタシロたちは高3になった。1年生も入部し、八王子高校吹奏楽部は総勢153人になった。3年生全員で考えた2024年度のスローガンは「快進」。全国大会を目指し、勢いよく前進していく、という思いを込めた。

 オーディションでA編成55人が選出され、コンクールで演奏する課題曲は酒井格作曲《メルヘン》に、自由曲はピーター・グレイアム作曲《交響曲「モンタージュ」より》に決まった。

 実は、《モンタージュ》を自由曲に提案したのはタシロだった。全国大会常連の岡山学芸館高校が2017年に全国大会で初めて演奏し、金賞を受賞した曲だ。

 初めて曲を聴いたとき、トビカワは思った。

(かなり難しいけど、しっかり演奏できればコンクールで高く評価される曲だな。それに音楽的にも素晴らしい。ソロが多いから八学の持っている個々の技術も発揮できるし、みんなで歌うように奏でるところもある。最後は感動的だ。この曲に出会えたのは運命だ!)

 トビカワはタシロに感謝した。

 コンクールに向けた練習が始まると、トビカワとタシロは積極的に「勝っている団体に学び、取り入れる」ようにした。福岡の精華女子高校の動画をメッセージアプリで共有してみんなに見てもらったり、過去の全国大会のDVDを手に入れて岡山学芸館の《モンタージュ》の演奏を鑑賞したりした。また、ライバルの高輪台の全国大会の映像をチェックし、ステージ上の楽器の配置を真似てみたりもした。最大の課題だった音圧のグレードアップにも取り組んだ。

 次々にトビカワたちが新しい取り入れるアイデアを提案すると、髙梨先生は「どんどんやっちゃって」と笑顔で認めてくれた。こんな先生はほかにいないのではないかとトビカワは思った。先生は自分たちを信頼してくれているし、先生も自分たちとともに挑戦しようとしているのだと強く感じた。

 

 ただ、自分たちの進んでいる道が本当に正しいのか、まだ確信が持てなかった。...