吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。

第20回は八王子学園八王子高等学校(東京都)#3

また本連載、オザワ部長の新刊『吹部ノート 12分間の青春』(発行:(株)日本ビジネスプレス 発売:ワニブックス)が2025年3月5日に発売されます。

吹奏楽部員、吹奏楽部OB、部活で大会を目指している人、かつて部活に夢中になっていた人、いまなにかを頑張っている人に読んで欲しい。感涙必至です!

「どうせ負ける」を乗り越えた副部長たち

 副部長のひとり、「イッちゃん」こと土方稜香は中学までオーボエを吹いていた。八学に入るとオーボエ希望者が4人もおり、髙梨先生に勧められてファゴットに転向した。

 レベルの高い部員たちの中でイッちゃんは必死にファゴットの演奏を身につけようとした。イッちゃんは入部したときから、大事なことを書き留めるための小さなメモ帳を持っていた。ファゴットを吹き始めた当初、教えてくれる人もいなかったため、自力で教本を見ながら練習していった。

 オーボエとファゴットは同じダブルリード楽器(重ねた2枚のリードで音を出す楽器)だが、演奏方法はまったく違う。指遣いもパーツの名前もわからなかったイッちゃんは、メモ帳にキーの名前を「はじのやつ」「上のやつ」「丸いやつ」などと書いて覚えていった。

 練習の甲斐あって、イッちゃんは1年のときからA編成のメンバーになれた。

 

 だが、1年のときから八学は負け続けた。高2のコンクール都大会本選でも負けた後、イッちゃんは不思議なことに気づいた。

「負けたのに、私、悔しくない……」

 イッちゃんは、負けることに慣れてしまっている自分に気づいた。

「どうせ負けるんだ。できる限りの努力はしてる。でも、どうせ全国には行けないんだ」

 心の奥底でそう諦めてしまっていたのだ。

 だが、高2の9月に副部長になってから、イッちゃんの考えは変わった。トビカワとタシロというふたりの男子が「勝つこと」を目指して次々と新しいアイデアを出し、みんなを引っ張ってくれた。吹部がだんだんと変わっていくのが肌で感じられた。

「もしかして、全国に行くのは夢じゃないかも」とイッちゃんは希望を持ち始めた。

 また、一緒に副部長を務める「アカリ」こと黒澤あかりの存在も大きかった。

「全国大会に出て金賞とりたいな……」

 イッちゃんがふとそう呟くと、アカリは笑顔になりながらこう言った。

「とりたい、じゃなくて、とるんでしょ」...