野球を教えていてはダメだ。教えていてもキリがない。
ファイターズの監督時代、栗山英樹はそう思い至る。その理由が『監督の財産』(9月9日刊行)に記されている。
教えるのではなく、気付ける選手を作る
(『監督の財産』収録「4 未徹在」より。執筆は2015年11月)
中島卓也はファウルを打つコツを覚えて、大きく成長した。
このファウルを打つ技術は自分なりに理解しているつもりだが、第三者にそれを伝えようと思うと、論理立てて説明するのはなかなか難しい。
ファイターズでは、バッターは2ストライクに追い込まれたら、最低限できることを精いっぱいやってチームに貢献する、具体的にはそこからなんとか粘って相手ピッチャーに少しでもダメージを与える、その意識付けを徹底させている。2ストライクアプローチという考え方だ。
追い込まれたらヒットを打つことだけを考えていてはダメ。その可能性を高めるためにも厳しいボールはファウルにして粘ることが求められる。ファウルを打っているうちに、いつかヒットを打てるような球がくるから。
しかも最近は大きく変化するのではなく、バッターの近くにきて小さく動くボールが増えているので、なおさらバットの芯で捉えるのは難しくなっている。だからこそのファウル打ちだ。
しかし、そうしなさいと言われて、はいそうですかと簡単にできるものではなく、現実は苦戦している選手も多い。できるのは田中賢、中島、近藤といった実際に数字を残している選手で、2ストライクアプローチが打率にも直結することを物語っている。
逆にそれができない選手は、追い込まれてからボールに飛びつくようなスイングで三振するケースが目に付く。
そんななか、シーズン中にあるテレビ番組を観ていて、ハッとさせられた。キャスター時代、僕も出演させてもらっていた「GET SPORTS」(テレビ朝日)という番組で、現役時代、2000本安打を達成した元ヤクルトスワローズの古田敦也さんが独自の打撃理論を解説していた。その理論が、そのままファウル打ちの極意にもつながる内容だったのだ。
簡潔にまとめると、以下のようになる。一般的にボールを捉えるヒッティングポイントというのは、内角球だとやや前め(ピッチャー寄り)、外角球だとやや後ろめ(キャッチャー寄り)といったようにコースによって少しずつ変わってくる。
それをすべて真ん中のボールを打つときのポイントと同じ位置で捉えることができたら、スイングを始めるタイミングはいつも一緒でよくなるので確率は上がる、というものだ。
ファウルを打つコツもそれとまったく同じ理屈で、バットに当たる確率が上がるということは、ファウルになる確率も上がるということになる。
しかも、内角球はバットの根っこでやや窮屈に、外角球はバットの先っぽでやや早めに捉えにいくことになるので、それもファウルになりやすい要因のひとつだ。ああ、こうやって練習すればいいんだ、というヒントをもらった気がした。
それにしても、さすが古田さんだと思った。自分で実践できるだけでなく、他者にも分かりやすく伝えることができる。しかも、それは誰かに教えられたものではない。あるとき、ふとした瞬間に自分自身で気付いたものなのだ。そこが肝心だ。
野球を教えていてはダメだ。教えていてもキリがない。
ただ、自分で気付ける人を作るというのはアプローチがまったく異なるので、もっと幅を広げてあげられるかもしれない。それがいまの仕事だ。
もし我々に選手が作れるならば、徹底的に教えこんで技術が上達した選手よりも、古田さんのように自分で気付ける選手、感じられる選手を作っていかなければならない。
(『監督の財産』収録「4 未徹在」より。執筆は2015年11月)