13歳のきみと、戦国時代の「戦」の話をしよう。』『面白すぎる!日本史の授業——超現代語訳×最新歴史研究で学びなおすなど、日本史をわかりやすく伝える本で人気を博すお笑いコンビブロードキャスト!!」の房野史典。今回は、彼の書評を執筆したこともある乃至政彦氏の新刊戦国大変 決断を迫られた武将たちの読みどころを語っていただいた。歴史好きだからこそわかる、本書の真の面白さとは?

定説・通説に一本背負いを決めるような新説

 もうね、つくづく思いました。「やっぱり“導入”って大切だな」って。

 サッカーなら立ち上がりの10分、漫才ならツカミ、本であれば「はじめに」。スポーツであろうとエンタメであろうと、最初が良いとグッと引き込まれちゃう(すみません、サッカーは何の知識もないので適当です)。

『戦国大変』を読み始め、まさに「はじめに」で掴まれてしまいました。

 文章がスタートして4行目、

「中世と近世それぞれの独自性と相違点を見るには、それまでの日常が通用しなくなるどんな事件があって、人々が何を決断したか、社会がこれに何を学んだかに、目を向ける必要がある。

 しかし、こうした抽象的な思考を進めようとすると、案外その思考を助けてくれる先行研究があまり見当たらない。」

 で、パカっと両目が開き、少し進んだ次の一文、

「例えば、兵粮など軍事物資の補給と管理をどうしていたのか、いまだによくわかっていない。」

「え」という声が漏れました。隣に銭形警部がいれば「ヤツはとんでもないものを(中略)あなたの心です」と言われかねないほど、鮮やかに心を持っていかれた状態です。

 兵站は大切です。どんなに優れた作戦・戦術があっても、ごはんが食べられなきゃ戦いどころじゃありません。だからこそ大名は、後方から物資を届ける補給線の確保に心を砕いたわけだけど、まさかその実態がよくわかってないなんて驚きの事実………って………ん?

 後方から輸送したんじゃないの? 実態わかってませんか?

「①戦国時代、大名が遠征する時は、後方から戦地まで軍事物資を輸送するのが通例であった。補給線を断たれると物資が枯渇するので、軍事侵攻時には後方輸送路の防備が不可欠であった。

②戦場では現地調達への依存度が高く、略奪を恐れる村落は、侵略者たちに礼銭・礼物を献上して略奪禁止の制札を求めた。」

 ほら。著者も続きに書かれてる。「後方からの輸送」と「現地調達」。すでに答えは出てる、と思っていたら……

「①は世界的な軍事の常識に照合するのだろう。だが、なぜか戦国時代に右のような補給と輸送の概念が移動する軍勢のため制度化されていたと考えられる史料が検出されていない。」

 え、ないの……?

「②は史料に基づいた確たる学説として受容する層が増えている。ただもしそうだとして、物資の補給を遠征先の略奪に依存する権力が、中世を乗り越え、そのまま近世を迎えられるだろうか。」

 説得力しかない……。略奪を基調としていたという見解では、為政者としての大名を無視することになってしまう。戦乱の世だからナンデモアリ、とはならないはずだ。

 それじゃ、戦国の戦における物資の補給と管理って一体……?

「はじめに」で掴まれたハートを引っ提げ、答えを求めて本文に突入してみれば、目的であった兵站の話を一時忘れるほど魅力的なテーマが並んでるじゃありませんか。

●《天下布武》は幕府再興と関係なし!——印判の字句はスローガンではない

●若武者・政宗が自作した撫で斬り悲話——その虐殺は本当にあったのか?

●直江状と景勝状——兼続は家康に書状を送っていない

 そうかと思えば番外編には、

●戦国大名の戦績データを考える——謙信と関東衆の臼井城合戦

 なんてコラムまで用意されている。とにかくおもしろい。

 どれもこれも定説・通説に一本背負いを決めるような新説ばかりで、かと言って荒唐無稽なとんでも話など一つもありません。丁寧な史料の読み解きが下地となった上での著者の仮説に、何度も何度も頷いてしまいました。もう一回言っときましょう。とにかくおもしろい。

 そして、当初抱いた疑問「戦の物資の補給と管理」も、当然本文にて答えを見つけることができます。それは……読んでからのお楽しみということで。

 最後に。ここで著者にメッセージを放ったところで届くどうか定かじゃないけど、そちらを締めの言葉とさせていただきます。

「乃至先生。『戦国大変2』はいつ発売になりますか?」

 

乃至政彦氏『戦国大変 決断を迫られた武将たち』
(SYNCHRONOUS BOOKS)